JARCLIVE6

JARC LIVE 7 ―この先、全国 700 軒のホテル計画がされている一 方で、ホテルや旅館の宿泊業界の人材不足問題はま すます深刻となっています。数の不足とともに有能な 人材育成も課題とされています。観光庁として宿泊業 界の実情をどのようにとらえていらっしゃいますか。 小熊 政府は、2020 年に訪日外国人旅行者数 4000 万 人、旅行消費額 8 兆円、そして2030 年には訪日外国人 旅行者数 6000 万人、旅行消費額 15 兆円という高い目 標を掲げています。この目標の達成に向けては、宿泊業 界における人材不足について、「質」、「量」の両側面か ら取り組みを進めていく必要があります。「量」の不足は、 女性・シニア・就職氷河期世代などの国内人材の活用 や外国人労働者の受入れを強化するといった施策を講じ ているところです。他方、「質」の面については、宿泊 事業者はこれまで「勘」や「経験」に頼った経営を行っ ているケースが多く、実態の数値から現状分析を行ない、 その結果を踏まえた対策を戦略的に打ち出すことができて いないことが多いのが実態です。人材不足の中、効率 的に生産性を高めることに傾注していく必要がありますが、 まずは経営状況の実態等を把握する能力が必要ではな いかと思います。また2030 年には地方部での外国人延 べ宿泊者数 1 億 3000 万人泊を目指している中、全国的 に訪日外国人旅行者がストレスフリーで旅行を満喫してい ただくため、高いコミュニケーション能力や多言語に対応 できる高度人材のほか、IT 化技術を活用して生産性向 上に取り組めるような人材を育成していく必要もあると考え ております。 林 小熊参事官のお話をお伺いしていますと、生産性を 高める以前の問題ということですね。経営状況は会計シ ステムの数字を見れば鮮明にとらえることができます。会 計には財務会計と管理会計があり、前者はある意味、税 金を納めるのに必要な会計のため、多くの宿泊事業者も 勉強するのですが、本当に大切なのは管理会計です。 管理会計をみれば部門別の売上とコストの対比が明確で あり、数字を読み込むことで今、何が課題なのかが明確 に分かります。従来通りの勘や経験知では急速に変化す る環境変化の中、戦略的な指南を描くことはできません。 現状では、管理会計自体が宿泊事業者間で浸透してお らず、これに精通する人材も少ない状況です。今後は、 これらの会計システムを始めとするITも活用できる人材を 育成していくことが宿泊事業者の経営環境改善に繋がる のではないかと思います。 ―厳しい事実ですが、確かに管理会計をしっかりと読 み込める人材は稀有かも知れません。 その中で観光庁としてどのような人材育成に取り組ま れていらっしゃるのですか。 小熊 観光産業を我が国の成長に資する基幹産業とし、 さらに高いレベルの観光立国を目指すため「観光産業を 牽引するトップレベルの経営人材」から「地域の観光産 業を担う中核人材」、さらには「即戦力となる現場の実務 人材」の 3 層構造で人材の育成・強化に向けた施策を 実施しています。観光産業をリードするトップレベルの経 営人材に関しては、京都大学および一橋大学において 観光MBAを設置し、観光産業の強化・発展を推し進め る優秀な人材の育成・強化に向けて検討および支援を行 なっています。地域の観光産業を担う中核人材について は、宿泊業をはじめとした地域の観光産業の経営力強化 や生産性向上を目指し、社会人向け講座を全国 13 大学 で開講しております。講座内容は経営戦略、財務会計、 組織、マーケティング、ブランディングなどを中心に、業界 有識者や大学講師陣による講義やディスカッションなどを行 なっています。宿泊業や旅行業の方々が中心ですが、そ れに限らず、IT・広告、ガイド、伝統工芸に関わる方な ど、幅広い業種の方々が受講されています。それだけ観 光、特にインバウンドに対する関心が高まっていることを実 感します。即戦力となる現場の実務人材については、主

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