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JARC LIVE 11 ペシャリスト育成に乗り出した。 2019 年 10 月には東京・大阪の 2 拠点で「米国-日 本ホスピタリティマネジメントサミット」を開催した。このサミッ トは文化観光プロジェクトマネジメント委員会と米国大使 館商務部、日米商工会議所とともに日本政府の後援によ り行われた初の試みだ。本サミットの目標は国際競争力 のあるマネジメント人材の育成プログラムを開発すること により、日本のインバウンドツーリズムを長期的に持続成長 させることにあった。世界的に評価の高い観光経営プロ グラムを有するネバダ大学ラスベガス校ら6 大学を米国よ り招いた。経営者育成においては京都大学、一橋大学 の観光MBAの開設支援を行なった。 「新年度は訪日外国人旅行者受入環境整備に向けた取 り組みや、フロント業務・企画・接客ができるマルチタス クな外国人労働者の育成にも注力していきます」(小熊 氏)と、人材育成の取り組み強化により、魅力あるホス ピタリティサービス業界へ向けた支援を通じて、国際的 に通用する業界発展に努めていく。 開業 130 年機にオペレーションの 大きな変革 帝国ホテル東京は接客への集中を図るためのシステム 改善に着手した。1983 年以来、ゲストとホテルマン目線 で自社開発したシステムで運営してきたが、外国人スタッ フの起用に伴い操作が複雑なことからフロント業務の効 率化が課題となった。世界の 5ツ星から就職した優秀な 人材が、システムが複雑なためフロント業務に立てないと いう実情があったからだ。 「ハイテクで効率的なシステムを導入することで、最後の ラストワンマイルは帝国ホテルらしい接客を通してお客さま とのつながりを築いていきたいという思いと、外国人雇用 が強いられている中、操作が分かりやすいシステムに切 り替ることでグローバル化に対応する環境を整えました。 開業 130 年という中、オペレーションの大きな変革でもあ ります」(花井氏)。 『雪』をブランド化した広域ブランディン グ 雪国観光圏 井口智裕氏は 2008 年より『雪』をブラ ンド化した広域ブランディングに着手した。その範囲は 3 県 7 市町村におよぶ。 「“雪”イコール“スキー”は降雪が少ないときリスクが高い。 そこで“雪”イコール“文化”という発想に切り替え、新 しいマーケットの創造に着手したのです」(井口氏)。 コンテンツに共通する独自の価値を見出し、個々の力 を結集させることで地域活性化につなげていくというもの だ。雪国は冬を越すための食の知恵の宝庫でもある。 早春から晩秋にかけて採取した山野の恵みを塩漬けや 乾燥品、発酵食として蓄える食文化は世界に誇れるもの。 織物文化や温泉など“雪”を軸にすると多様なものが発 掘できる。 「雪と共生した文化の素晴らしさを伝えるために、適切 な投資を行なうこと、そして一定のサービス基準を備える ことで安心感とラグジュアリー感を感じさせることができま す。令和元年7月、新潟県魚沼市に全面リニューアルオー プンした ryugon(龍言)は、ハード、サービス、ヒュー マンにこだわり、新たなスタートを切り、新たなマーケット の創造にチャレンジしています」(井口氏) 顧客満足度を高める工学の知識と創造力 最後に林悦男会長より宿泊産業の活路を見出す「ホ スピタリティサービス工学」の可能性が語られた。宿泊 産業は個人の力量に依存する「パーソナルサービス」 を軸に運営してきたが、後に画一化されたマニュアルで サービスを提供する「ヒューマンサービス」が主流となっ ている。最近ではAI 化にともないさまざまな場面でロボッ トを活用する機会も増えてきたが、テクノロジーだけでは 顧客満足度を高めることは難しい。この壁を突破するた めには生産性を高めながらも顧客満足度を高めていく頭 脳として工学(エンジニアリング)という発想が必要であ ると林会長は提言した。 「テクノロジーをサービスに変えていくことができるか、こ の発想を持っているのが工学者です。何と何を結び付け て顧客満足度を高めるサービスに変化させていくことがで きるか、高度な知識と柔軟な発想、創造力がなければ できません。工学は時代とともに変化します。失敗を恐れ ることなく何度も検証することで、新たな活路を見出すこ とができます。インテリアデザイナーとテクノロジー、工学 とホスピタリティサービスなど、工学をつなぎ役として活用 することで計り知れないことが実現できます。ぜひ、新た な分野としてホスピタリティサービス工学の存在価値をご 理解いただき、魅力あるホテル作りに挑戦してほしい」と 力強く語った。 懇親会では日本政府観光局 国際観光振興機構 亀山 秀一理事長代理、国際観光施設協会 鈴木裕会長、日 本観光振興協会 久保成人理事長等が壇上にてあいさ つをおこなった。参加者同士での名刺交換、情報交換も 活発に行われにぎわい、活気のあふれたひとときであった。 もはや1人、1社、1団体、1市区町村では大きな変 化の波に太刀打ちできない。ともにホスピタリティサービス 業界の発展に向けて、今こそ立ち上がる時であることを 痛切に感じたパネルディスカッションであった。

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